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八ヶ岳・赤岳西壁主稜

  2007年3月10~11日

【はじめに】
 この土日は、一月の阿弥陀岳北稜以来の八ヶ岳へ。目指すは八ヶ岳の赤岳西壁主稜。今回も雪山登山の経験の少ない者同士二人でバリエーションルートを登ろうというのが目的です。このルートは一月頃から登ろう登ろうと話していたのですが、天気が悪かったり他の山行の予定が入ったりしてなかなか行けずにいました。
 今回、当初の計画では土曜日に赤岳鉱泉に入り、日曜日に主稜を登る予定だったのですが、日曜日に天気が崩れるという天気予報を受けて、土曜日のうちに主稜を登ってしまおうということになりました。計画は、前夜発で美濃戸口で仮眠し、北沢経由で赤岳鉱泉にテントを張ってから中山乗越・行者小屋経由で文三郎道を登り、主稜に取付くというものです。さらに、頂上から文三郎道を降り、行者小屋・中山乗越経由で赤岳鉱泉に帰着するというものなので、相当に強行軍です。日曜日は赤岳鉱泉から下山するだけです。余裕があればアイスクライミングもするつもりでした。

【赤岳鉱泉へ】
 例によって美濃戸口の八ヶ岳山荘内で仮眠。翌朝、出発の支度をしていると、赤岳山荘への林道へ少し前に出た車がすぐに戻って来たので、聞いていみると路面が一部凍結しているとのことでした。前回、阿弥陀岳北稜の際も凍結して車で行くのを諦めた経緯があり、今回はもともと歩くつもりでしたが、これを聞いて迷わず歩くことを決めました。無理に林道の奥まで進んで途中で立ち往生したら、それこそ大変なことになってしまいますから。
 途中の登り斜面では車が立ち往生していて、乗っていた人たちが路面の氷をピッケルで砕いて凸凹を作っています。大変な作業のようです。車はシボレーだかどこかのドでかい1ボックスカーだったかと。やっぱり始めから歩くことにしたのは正しい判断でした。
 1時間ほどで赤岳山荘に着き、少し先の美濃戸山荘で休憩。1月から比べると夜明けが早くなったのが分かります。続けて北沢方面の林道へと進んで行きます。前回、南沢から行者小屋を目指しましたが思った以上に時間がかかり大変でした。赤岳鉱泉経由になってでも北沢のほうが楽だとの判断からです。快晴の空の下、重い荷物を背負って赤岳鉱泉へと歩いていきます。そして9時頃、鉱泉の小屋に着きました。人工氷壁「アイスCimg3231キャンディー」の氷が以前よりも発達していて随分と太くなっています。すぐにテントを張り、小屋でテント場代を払い、30Lザックに登攀具やビバークに備えた装備を入れて10時10分くらいに出発しました。

【赤岳西壁主稜】
◆取り付きへ
 中山乗越では、中山尾根へと登っていくトレースがありました。そのうち、このバリエーションルートにも行ってみたいものです。乗越から行者小屋へはすぐに着きます。ここで靴のヒモを掬び直していると、中年の二人連れがいて、どうやらこの二人も主稜を目指しているようCimg3234です。時間は11時くらいですから、のんびりしているわけにはいきません。
 先の二人を追い抜いて、阿弥陀岳北稜へのトレースを右に見て、文三郎道を登って行きます。まずは主稜の取り付きがどこなのかが心配だったので、文三郎道を登りながら時々、ルート図と見比べて取り付きを探しました。ルート図もいくつかあって、古いものは赤岳沢を詰めて行くようになっているのですが、最近はもっと上のチムニー状の岩場から取付くことが多いそうです。雪崩の心配があるし時間も無いので、我々は後者の取り付きを目指します。
 同行者が疲労のせいか足取りが遅くなってきました。後から来る二人連れを見ると、下の方から文三郎道から離れ主稜へと向かい始めています。さきほどの前者の取り付きを目指しているようです。彼らの歩くペースを考えると、あんな下から取り付いて頂上へ抜けられないのではないかと思いました。しばらくしても登ってくる様子がないので、どうやら諦めて引き返したのではないかと思われます。
 文三郎道をしばらく登ると先行する3人パーティーが左へと行くのが見えます。どうやら同じ赤岳主稜を行くようで、そこが取り付きへの分かれのようです。確かに数十m先にガイドブックの説明にあるようなチムニー状の岩場が見えます。チムニーには顕著はチョックストーンがあると書いてあるのですが、それが右側と左側に2つあるように見えます。右側のは切り立っており、とても2級の岩場には見えません。先行が取り付いているように左側が正しいようで、遠めにも易しく登れそうなのが分かります。
 取り付きへは、文三郎道から左にルンゼ状のところをトラバースして行くのですが、ここで同行者が疲労のためか二の足を踏んでしまいました。登りたくない、引き返したいと言い出したのです。たしかに天候の悪化などの外的要因に限らず、疲労などによっては無理をせず行動を断念する場面は、登山にはつきものです。無理をして事故でも起こせば大変なことになってしまうわけですから、安易に行っちゃえ行っちゃえというノリは禁物です。一歩間違えれば死亡事故にもなるので、たくさんの場面で様々な判断を迫られます。
 今回、同行者の様子を見たところ、確かに疲れていた様子はありましたが、肉体的にバテてしまったわけではないようです。最近の岩登りでうまく登れなかったためかどうかまでは分かりませんが、ちょっと気持ちが落ち込んでいるようです。もちろん、ここで引きCimg3248返しても構わないとは答えました。しかし、ここで降りたらちょっと大変な場面に遭遇しただけですぐに逃げてしまう“逃げ癖”がついて しまうのではないかと私は懸念しました。そこで、岩場では私がすべてリードするから、まずはトラバースして取り付きまでは行こうと言い、なんとかそこまで歩いてもらいました。
 先行の3人組はとうに登っているので、我々はロープを出して登はんの準備をしました。取り付きでその作業をしていると、同行者の調子がちょっぴり上がってきたようです。聞くと、雪ばかりの広い場所にいるより、岩に囲まれた場所のほうが落ち着くとのこと。岩に囲まれているほうが落ち着くなんて、岩ノボラーにふさわしい感性です。登る意欲も出てきたようです。私が思っていたとおりで、引き返さなくて正解でした。とはいえ、前進することを主張した以上、私もしっかりと登っていかなかればなりません。

◆赤岳西壁主稜
 さて、いよいよ登はん開始です。岩場そのものは難しいものではありません。露出している岩は乾いていて、それに晴れているせいかそれほど冷たくありません。グローブを外して素手で岩を掴んで登っていきます。ランナーを取るようなハーケンなどがないので、ピナクルにスCimg3250リングをかぶせてランナーとしました。1ピッチ目はチムニー状の凹状を登り、すぐに右上、さらに階段状を登ったあたりでピッチを切ります。セカンドが登ってきます。そこからしばらくは雪稜が続くので、ロープをコンティニュアスにして登りました。このコンテ、一人が滑落した場合、もう一人がそれを食い止めることはできるものではないで、安易に使用するものではないとのこと。
 雪稜を登ると二つ目の岩場にたどり着きます。3人組がすぐ先を登っていて、どうやらなかなか登れないようです。後で知ったのですが、この3人組は一人のガイドに二人のお客とのこと。お客の二人が登れないでいるようです。我々は彼らよりもう少し、右に上がったところから岩場に取り付きました。この頃からガスと風が出てきて寒くなってきました。時間を考えるとゆっくりしている暇はありません。
 出だしでは再び素手で岩を登っていきました。左に行ったり右に行ったりとロープが屈曲して流れが悪くなります。ロープが絡まってしまいセカンドの同行者はちょっと苦労しています。スムーズに登るためにもロープを絡ませないのは大切なことなのですが、慣れないとなかなか大変です。もっと練習を積んでロープワークに慣れないといけないと反省しました。頼りなげなハーケンで支点を取り、セカンドのビレイ。本当にこのルートで良いのかと不安になりましたが、この先はそれほど険しそうではないし、少し先を見るとペツルのボルトも見えたので、ルートは正しいのだろうと思いました。
 3人組が我々の後を登ってきました。どうやら難しい場所を諦めて我々と同じところを進むことにしたようです。3人組と平行するような形で登っていきます。ここからはグローブをはめて登ることにしました。寒くなってきたし、雪山で素手でいることはそもそも推奨されることではありませんので。ガイドに負けじとリードで進みます。岩場を超え、緩い雪稜では同行者に先に行ってもらいました。ほとんど確保を必要としないような稜線を何ピッチ分か登っていくと、ようやく上に抜けることができました。
 辺りは暗くなり始めています。閉まっている赤岳頂上小屋がすぐそこにあります。ここから赤岳の頂上までは100mほどの距離ですが、一足先に着いた3人組は頂上へは行かず、横岳方面に下ったところにある赤岳展望荘に行くとのこと。
 やがて同行者も登って来て、無事に赤岳主稜を登ったことを喜びました。時刻はすでに午後6時。随分と暗くなってきました。頑張って下山しようかとも考えたのですが、無理して事故を起こしたくないし、同行者もけっこう疲れているので、我々も展望荘に泊まることにしました。近くにある山頂にも行きませんでした。主稜そのものは登ることができたし、あえて頂上を踏みたいともあまり思わなかったので。登る過程が楽しいのであって、最近は頂上にはあまりこだわらなくなってきました。それに、これだけ頻繁に八ヶ岳に来ているといつでも頂上には行けますし。とはいえ、お正月の槍ヶ岳以来、まともに山の頂上を踏んでないなぁとは話しました。

【赤岳展望荘】
 ヘッドランプを点けて展望荘へと雪の斜面を降りていきます。暗くなり風も強くなってきましたが、今日は下山はせずに小屋泊まりだと思うと気楽なものです。20分ほどで小屋に到着。先の3人組が、後から我々も来ることを小屋番の人に伝えておいてくれたようで、まずは食事をするように言われました。夕食付き一泊で一人7,500円です。普段の山行を考えるとすごく贅沢ですが、仕方ないでしょう。ちなみに、素泊まりは6,000円で、二食付きは8,500円。寝袋などの荷物は鉱泉のテントの中に残してきたままですが、ここには布団もあるので、一夜を過ごすのに心配はありません。
 小屋に入るなり暖かい空気に包まれ、ホッとしました。食事の前に、とにかく身に付けていたものを脱ぎました。ザック、ヘルメット、ハーネスにオーバージャケット、オーバーパンツ、アイゼン、登山靴。装備から開放された身体でセルフサービスの食事をよそいました。で、食べる前にまずはビール。うまい。くたくたに疲れた時に飲むビールの美味しさはたまらないものです。おかわり自由だったのですが、疲れていたせいか自分でも思っていたほど喉を通りませんでした。
 寝る場所は地下通路みたいなところを通った先の別棟で、個室に分れています。2階建てで、真ん中の廊下は、ゴーッと音をたてているヒーターから温風が出ていて暖かいです。廊下に装備や服を出して乾かすわけです。個室で布団を敷いて、今日の反省会をしました。あぶなっかしいビレイもしましたが、なんだかんだ言って登りきって良くやったということになりました。この夜は思ったより疲れすぎていたのか、あるいは枕がかわったせいか、なかなか寝付くことができませんでした。
 それにしても外はすごい風で、ゴオォという音がずっと聞こえます。建物もガタピシと鳴っています。夜中に時々目覚めて聞くと、少しは風が収まったのか音が小さくなったりしてます。明日は地蔵尾根から下山する予定なのですが、強風の中、歩いて行けるか心配です。それでも今は建物の中にいるので、とっても気楽なものです。

【下山】
 翌朝は、下山するだけだから急ぐ必要はないと、起きたのは6時。それから布団を片付けたり持ってきていた行動食を食べたり装備をまとめたりしました。すでに出発して行った人たちもいるし、様子を見ている人たちもいます。外を見ると、相変わらずの強風です。テレビの天気予報では昼頃からは晴れてくるそうですが、それはあくまでも下界の話。山の上は雪は止んでも風は収まらないだろうとの話しです。8時頃になり、いつまでも待っていられないので、我々二人は出発することにしました。地蔵尾根に下る下降点は少し歩いたところですが、とにかく風が強く足取りもゆっくりになります。他の登山者もいます。
 下降点からの降り始めは、谷の方から風が吹き上げてきて目を開けていられません。実は、私はゴーグルを持ってくるのを忘れてしまったので、吹雪が目に当たって開けていられないのです。それでもジワジワと雪面を降りて行くとだんだんと風が弱くなってきました。ほかにもパーティーがいます。雪の上に鎖が覗いているような場所を過ぎるとやがて稜線も幅が広がり、樹林帯の中に入りました。ここまで来れば気楽なものです。サクサクと行者小屋に向かって下って行きます。樹林帯の中は静かなものです。行者小屋、さらに中山乗越を経て、赤岳鉱泉に着くと、すぎに荷物をまとめテントを撤収しました。
 重くなった荷物を背負って下山します。アイゼンを履いたまま下っていきます。堰堤広場、赤岳山荘を経て、美濃戸口の駐車場に到着。無事に下山できました。帰り道は、近くの「もみの湯」で身体の汚れを落とし、白州町にあるサントリーの醸造所を見学しました。ここは私はなんどか来たことがあるので、同行者にもぜひ見てもらおうと誘いました。しかし、ちょっと時間が遅かったため、ウイスキー工場の見学はできず、ミネラルウォーター「南アルプスの天然水」工場の見学のみとなりました。次回はぜひウイスキーの製造工程を見てもらいたいものです。
  さらに甲府市内の寂れた定食屋で空腹を満たし、閉店時間間近の石井スポーツも覗いて、高速道に乗らずに帰りました。八ヶ岳は雪山入門には丁度良いと言われますが、そのとおり大変ながらも楽しい山行となりました。おしまい。

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