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錫杖岳(後半)「P4ルーフ」

【P4第4フェース「P4ルーフ」】
 暗いうちに起きてお湯を入れるだけで食べられるフリーズドライの朝食をとる。ようやく明るくなってきたところでテント場を発つ。前日見つけておいた踏み跡に入って行く。25分ほどで岩壁に出る。

■1ルンゼを錯誤
 出たすぐ左手に大きなルンゼがある。どうやらこれが3ルンゼか。本当にこれが3ルンゼなのかどうか自身がないので、さらに左に続く踏み跡を辿ると数分で左方カンテに出てしまう。あれ?その間に1ルンゼや2ルンゼがあるはずだが、どうもそれらしいルンゼはない。いまいちよく分からないまま、3ルンゼと思われるところに戻り登攀の準備をする。他パーティーの記録には、じーやの大冒険は3ルンゼを少し登ってから右壁に取り付くとある。
 私のリードで登攀開始。目の前のルンゼの左側を少し上がると支点があったのでそこでピッチをいったん切る。ここからがじーやの1ピッチ目であり5.10cでルート中の核心のはずで、そこも私がリードすることになっていた。ルンゼを跨いでトラバースし、すぐある短いクラックを登る。10cというほど難しくない。抜けるとボルトがあったのでそこでピッチを切る。Imgp2700

 これが本当にじーやなのかどうか2人とも自身がない。取付を通りかかったクライマーに声をかけると、3ルンゼだと思うと言う人もいれば、1ルンゼだよと言う人もいる。人によって言うことが違うので混乱してしまったが、最後に判断するのは我々だ。と2人で話していたら、前日の3人組の人が下にやって来て、ここは1ルンゼだととどめを刺してくれた。3人組の一人は冬の錫杖も登るようなベテランなので、さすがにその意見を信じることに。
 このまま1ルンゼを登っても仕方ないし、時間がまだ早かったので降りることにした。

 朝登ってきた道が岩壁に出たところで、すぐ左手のこの1ルンゼに目を奪われていたが、踏み跡は右にも続いていた。少し歩くと石の小さなガレというか道に出る(木の枝に白い案内札がかかっている)。それを上がると、ここを登れと言わんばかりの3ルンゼが見えてくる。3ルンゼの上部は両側の岩壁の隙間から向こうの空が見えている。ここだったのかあ。3ルンゼを登るというパーティーに続いてすぐに登り始めることにした。
 結論から言うと、じーやの大冒険を登るつもりが、誤ってP4ルーフを登ってしまった。P4ルーフというルートは「日本の岩場」に載っていない。帰宅してインターネットで山行記録を調べたところ、やっとP4ルーフらしいと分かった。登っている最中はそんなことは分からなかったので、下記のグレードはそのネットで見つけた記録に拠る(1P目を除く)。

■P4ルーフ
1P目(Ⅱ?):K端
 9時過ぎ、仕切り直しで登攀開始。3ルンゼを登る2人組に続いて、K端さんが3ルンゼを20mほど上がる。緩い階段状で、3ルンゼルート1P目の半分くらいの長さでⅢ級もないからいちおうⅡ級としておく。ルンゼの左側(右岸というか)壁内にビレイポイントがある。ここは他パーティーの記録では、3ルンゼを登るパーティーがいると落石が危険とあるが、このあとその場面をまざまざと目撃することになる。
2P目(5.10c):ミノル
 ここからが実質の登攀。我々はじーやを登るつもりでいたのだが、帰宅後ネットで調べた分かったのだが、P4ルーフも少なくともこのピッチまではじーやと共通である。ビレイポイント向かいの右壁(左岸)に取り付く。壁が立っているが、その右寄りが少し低くなっている。他の記録には、その壁の中にあるポケットを右手指2本と左手はカチを持って離陸して上部のガバを取るというボルダーチックとあった。たしかに指2本入るポケットがあるが、私は初めからガバが届くし、特に難しくない。そうして一段上がり、ランナーが取れないところを左上する。フォローで続く人はフォールした際に左に振られないように注意が必要だろう。
 そうすると頭上に湿ったチムニーがかぶさってくる。手持ちのカムをどんどん使いながら少しずつチムニー内をにじり上がる。まったくのビショビショというわけではなかったのだが、滑りそうで緊張する。チムニー内では背中を壁に押し付けバックステップする感じだと安定してカムをきめられる。途中、頭上のチムニーが狭まり頭がつかえるところでは、右のホールドを取ってチムニーから身体を出す。再びチムニー内に戻ったりしながら、なんとかテンションせずに抜けられた。核心のチムニーを抜けたものの、ビレイ点はまだ見えない。ルート図には50mとある。どんどんロープが重くなる。というかチムニーのどこかに引っかかって流れが悪くなっているようだ。ランナーの取り方に注意。ぐいぐいとロープを手で手繰りながら、50mロープがいっぱい出切ったところで、ビレイ点に到達した。ふう。
 途中、「ラク~ッ!!」という声が聞こえ、下をみると3ルンゼ内を石が跳ねながら落ちている。どうやら3ルンゼを登っているパーティーが落としたらしい。遠めながら見たところ、ソフトボールよりは大きいくらいかも。そんな石がK端さんのすぐそばを跳ねて落ちていった。K端さんに声をかけると「大丈夫~」という返事。無事だったから良かったものの、やはりあそこでビレイして長居するのは危険だ。早く登らねば。
 凹状内にボルトが2本あった。ハンガーはそれなりに新しそうだが、ボルトの頭は二つとも茶色く錆びている。ここで左上してくる雪稜会ルートというのと合流するはずだが、その雪稜会ルートというのが見下ろしてもよく分からない。K端さんがフォローで続く。手繰り上げるロープが重いのなんの。登るより疲れる。Imgp2707 
3P目(Ⅳ+):K端
 このピッチが結果的にじーやとP4ルーフの分かれ目になってしまったようだ。上を見上げると左カンテあたりに灌木が2本見える。あのあたりかそのもっと右寄りでピッチを切るようだと判断。実際のじーやのラインはその灌木よりも左に回り込んだ見えない左側にあったわけだ。その左へのラインがどこなのかはよく分からない。灌木よりももっと下から左に行くべきだったのかも知れないし。目の前の岩壁をじーやと思いこんだ我々はそこを行くことになる。
 K端さんは出だしの草付きを上がり、少し右寄りから左へというラインで灌木の右下方でピッチを切る。といってもボルトは確か1本だけだったか、頼りなくなってくる。Imgp2710 
4P目(Ⅴ):ミノル
 じーやと思い込んでいた我々は、このピッチを5.9のハンドクラックと勘違い。大したクラックもないし、ルート図にあるような凹角になっていない。おかしいなあと思いつつも登る。難しくはない。頭上にハングした岩が迫るところで、数人立てるくらいのテラスに出る。登ってきた長さからみてのここでピッチを切るべきと判断。しかしどこをさgしてもボルトがない。そこそこ登られているルートのはずだからボルトがしっかりあっても良さそうなものである。というわけで、ここはもはやじーやではなく、続くP4ルーフの核心部分の直下だったのだ。右手の壁のクラックにカムをきめてビレイする。
 じーやでないとすると、直上ルートなのかとも思ったが、ルート図と合わない。日本の岩場のルート図では、じーやと直上がずいぶん近く隣りあって描かれているが、実はこの間にハングした岩があり、そこにP4ルーフのラインがあるのだった。Imgp2716 
5P目(5.10d):K端
 いまだにじーやと思い込んでいるので、このピッチは5.8と勘違い。数mクラックをあがるとかぶった岩の下を右上するようにクラックを辿り抜けて行くようである。この右上して右壁に移るところがどうもものすごく大変なようである。エイリアンなど小さいカムをきめながらK端さんは奮闘するも移るところで、たまらずフォール。3mほどおちただろうか。ハイブリッドエイリアンは外れず効いてくれた。しかし後で分かったのだが、K端さんはこの時に右足のスネに裂傷を負い出血。この抜け口のパートが極端に悪くなっているようだ。フリーでは厳しいので、カムをつかんでA0したり、スリングをアブミにしたA1で何とか突破。このトライで3回フォールするも本当に大変そうだ。しかしその時の私はまだ5.8と勘違いしていたので、どうしてあんなに大変そうなのかと思っていた。フォローで登ってみて、その大変さを思い知った。ハング下のクラックを右上でレイバック気味に持つあたりで、その先がクラックが途切れているようで、右手の壁に移るのも相当に大変だと分かった。P4ルーフの予備知識が全くない我々、特にリードしたK端さんは本当に苦労したわけだ。私もたまらずカムをつかんでしまい、A0で抜ける。右壁にガバがあるのだが遠い。後で調べて5.10dと分かったが、11でも良いのではと思うくらいだった。
 ハングを右から越え、上部フェイスを登るとK端さんが細い灌木でビレイを取っていた。Imgp2719 
6P目(Ⅴ):ミノル
 最後のフェイスは何でもない。10mくらいだったか、登るとボルトが1本あった。K端さんのビレイ支点が細い灌木なので、ここでピッチを切ってもよいのだが、上部にブッシュ帯が見えていたのでこのまま登り続ける。ブッシュ帯に分け入り、ピッチを切る。P4肩下のブッシュ帯のようだ。見上げるとP4の岩峰が立っている。これがじーやだとすると、最後にⅢ級のピッチがあるはずなのだが、ただのヤブ漕ぎにしか見えないので、登ってきたK端さんと相談して、ここで終了することにした。

 懸垂下降では、2ヶ所でスリングを残置しながら同ルートを降りた。前日のように途中でロープが引っかかることもなかった。ただ、5.10cのチムニー抜け口にロープが入らないように、その左寄りを降りたほうが良いだろう。取付に戻り、K端さんがズボンのすそをめくりあげると血で真っ赤だった。大変だ。血は止まっているものの、傷口は深そうだ。Imgp2728 
 Imgp2726

 荷物をまとめてテント場に戻る道をたどる。すると傷口から再び流血が始まり、靴下までべっとりと血で濡れてしまっている。これはマズい。持っていた救急セットから大判の傷口パッドを当てるが、すぐに赤くなってしまうようだ。2~3針縫ったほうが良いくらいの傷口だ。K端さんはゆっくりと地力で歩く。テント場に着きすぐに撤収する。翌日は小川山で仲間と合流してクライミングのつもりだったが、とても無理のようだ。松本あたりで救急病院に寄れれば良いが、いずれにしてもK端さんは今日中に帰ることした。
 中尾橋の駐車場までの道のりも大変そうだった。重い荷物を背負って下るとなると、やはり足に負担がかかり痛みも相当なようだ。この時期6時を過ぎるとすっかり暗くなる。ヘッドランプを出して、6時半にようやく駐車場に着いた。平湯の温泉に寄ったり、のんびり夕食をとるというわけにもいかない。今日中に帰るとなると救急病院に寄っている時間はない。私は翌日小川山に行くことにして、K端さんを松本駅まで送ることにした。中央線の特急に乗れば、十分帰宅できるだろう。

 2人ともラインの誤りに気付かなかったとはいえ、K端さんがケガを負ったことは申し訳なく感じる。あとで聞くと、翌日病院に行ったとのこと。傷口は縫うのではなく、まずは化膿しないように血を流させるそうである。飲み薬も処方してもらったらしい。さらにその翌日、K端さんは仕事に出たそうだが、動いていると足が腫れてきてしまったそうだ。そこで次の週末まで仕事を休み、水曜日からちょっと入院するかも知れないとのこと。医者の話だと、要は動かずに横になって足を高くして安静にしていれば2~3日で治るそうだが、動いているといつまでも傷口がふさがらず、化膿してしまう恐れもあるのだという。本当に申し訳ない。お見舞い申し上げます。
 K端さんを松本駅に送った後、高速に乗り長坂ICへ。道の駅「南きよさと」で車中泊した。翌日は小川山だ。

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