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タイ・プラナン再訪 クライミング旅行記④ (12/25 タイワンドウォールのマルチピッチ[後編])

■空中懸垂での反省

前号のつづき。登はん終了後、すぐに懸垂下降に移る。2本のロープを結んで少しずつ垂らすように下ろす。束をまとめて投げるようにはしない。私はハーネスのビレイループに環ビナとルベルソでシングルロープを2本通す。万一、仮固定する際に下側のロープを持ちあげるために、これは教えてもらった方法なのだがハーネスのレッグループにビナをかけ、そこにロープを通しておく。そのビナを介してロープを上に持ち上げることで少し制動がかかり、確保器周りにぐるぐるとロープを巻いて仮固定すれば良いわけだ。後述することになるが、今回の場合これはダメなのだ。しかもマッシャーなどのバックアップを取っていない。普段の懸垂下降ではやらないことが多いが、これが致命的な事態に直結することになる。私が先に下降して下りていくが、太いシングルロープであるうえ、強風のため、ロープの流れが重い。途中岩に引っかかったロープを下に投げるとそれが延々と斜めにたなびくのが見える。そうしながら下りていくと、やがて足が岩壁から完全に離れ空中懸垂となった。そして、先ほどいたテラスの高さまで下りてきたが、空中にぶらさがっているだけで、テラスには手も足も届かない。分かる人には分かると思うが、あまりにもお粗末でしかも致命的な事態に直面しているのだ。何もできない状態で力尽きてこのまま手を離せば、バックアップを取っていないのだから、末端を結んでいるとはいえ、そこまで下り切って、空中に垂れ下がったロープにぶら下がったまま何もできなくなってしまうのだ。登り返しのためのスリングが十分かと言うと、いちおうテープスリングでまっシャーを作り、延々と登り返しはできたかもしれない。仮固定のことを書く前に、助けられたことを先に書く。テラスには若者をビレイ中のイタリア人の年配者がいた。その彼が、手を伸ばすと私の手に届き、そのまま引き寄せてテラスに立たせてくれた。

私がセルフビレイをと取り礼を言うやいなや、英語で何か早口に言っている。私がものすごくマズい懸垂をしていたことを注意しているのだ。命を守るためにナニナニ~、というようなことを言っているのは理解できた。彼は、私が掛けたハーネスのレッグループのビナをすぐにはずし、ビレイループから直にとっていたルベルソを顔の前に来るくらいの長さにしたスリングの先にかけるようにし、代わりにビレイループに環ビナをかけ、それに細いダイニーマ製のスリングをインクノットで結び、環ビナのすぐそばになるようにメインロープにマッシャーで結んで反対側を環ビナに再びかけてくれた。ごく短時間でこれを作って見せてくれて、厳しい顔で私に「ドゥーユーアンダスタン?」と聞いた。バックアップのことはだいたい理解していたつもりだが、今回まるでやっていなかった私はすぐに自分のバカさ加減を痛感し、分かったと返事した。

彼は両手を広げて、懸垂下降中に両手を離してもそこで止まれる方法をしておかなかればならないのだと言っているのだ。当たり前と言えば当たり前なのだが、これほどの長い空中懸垂ではそれが致命的な事態になりかねないのだ。懸垂下降でのミスによる死亡事故は多いと聞くが、自分自身もそうなっていた。マッシャーやプルージックによる停止だけでなく、もちろんロープの登り返しができる分のスリングも必要だ。

仮固定に関しては、これほどの強風ではおそらくできなかったはずだ。普段の仮固定は下側のロープを持ちあげて確保器周りにぐるぐる巻いたり、最近知ったのは太ももに巻くだけでも下側のロープの重みがあれば止まる方法がある。しかしそれはロープを持ちあげられるからだ。強風下でバックアップがない状態で片手でロープを持ちあげられたかと言うと心許ない。今まで本当にいい加減な懸垂をやっていたのだと痛感し、反省した。そして、日本にはないような長い長い空中懸垂では、それが死につながるということだ。もちろん長さに関係なく懸垂中にはロープの絡まりなど様々な事態はいくらでも起こりうる。

では、空中懸垂で下りてきても、壁から離れてしまい次の支点に届かない場合はどうすれば良かったのだろうか?これは分からないが、少なくとも今回の場合、登ったピッチをすぐに下降するのだから、バックアップ用のロープの下側をテラスの支点にフィックスしておけば、下降してきて、そのロープを手繰ればテラスに戻れたと思う。この話を後日山仲間にすると、ではその次のピッチも空中懸垂だった場合はどうすれば良いのか?と聞かれた。分からない。バックアップ用ロープは当然下でフィックスされていないのだから、手繰り寄せられない。分からない。手持ちの装備では足りず、予めもっと固定ロープが必要なのかも。

U野さんも同様に下降してきて、今度は私がU野さんを引きよせた。手が届く距離だったから、結果的に助かっただけだ。このイタリア人は後続のパーティーにも何か注意していたから、もしかしたらヨーロッパアルプスのベテラン山岳ガイドとかそういう人なのかもしれない。聞いておけば良かった。

次の懸垂では、教えてもらったとおりにバックアップをセットし下降する。再び壁から離れ出したので、その前に壁のホールドを掴みながらそろそろと下りて、次の支点に着いた。この方法だって本当はマズイのだ。風にあおられたりして、壁から離れてしまったら元に戻れないからだ。壁から離れたくなかったら、普段どっかぶりの壁でヌンチャクを回収しながらロワーダウンしている際に残置ビナにクライマー側のロープを通すように、捨てビナやスリングなどランナーをとって、壁から離れないようにするしかなさそうだ。

這う這うの体で取り付きに下り着くことができた。助かった。ロープを引きぬくのは本当に大変だった。1人の力ではびくともしない。力を緩めるとロープが上に戻ってしまうので、一人が下に引いている間に、もう1人が上に手を持ち替えるようにした。これをずっと繰り返していると、あまりのロープの重さに腕の筋肉が攣りそうになってきた。

時刻はすでに午後4時を回っている。下でのぼっていたはずのAさんやN川さん夫妻の姿はなく、おそらく他の岩場に移動したのだろう。帰りのボートは6時と決めているので、そこで待合せればよい。以前風が強い中、クタクタに疲れた我々は荷物をまとめて、ライレイビーチに戻った。本当に疲れた。そして生還できて良かった。

ライレイウエストから数百メートルほどの細い通路を通って、反対側のライレイウエストに行ってみる。一年前に泊まった安い宿ヤヤは、最近プリンセスリゾートのグループ傘下になったらしく、見た目は代わっていないようなのだが、安い部屋が無くなってしまったらしい。豊かになってきてだんだんと高級路線になっているのだろうか。安宿を求めるクライマーにはだんだんと居づらくなってしまうかもしれない。ムエタイやワンツースリーエリアまで散歩してみると、AさんとN川さんの奥さんがいて、荷物をまとめているところだった。N川さんは前日から風邪気味でこの日も途中から先にホテルに戻ったという。

この日は必死の懸垂下降と強風のためか目が回るような妙な疲労感で、近くのレストランで夕食を済ませ宿のベッドに横になるとそのまま泥のように寝てしまい、マッサージには行かず仕舞い。

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コメント

レポート、身にしみます。私も懸垂下降失敗で怪我をしたことがありますので。何ピッチにもわたる空中懸垂、本当に恐いですね。そして4kgの重りをつけてのクライミングや懸垂下降、本当に大変だったことと思います。
私もマルチピッチを離れていますので、いざという時のためにマッシャー用のスリングや捨てビナを持参しないと、と思います。

普段のクライミングではともすると気が緩みがち。初心を忘れず、安全確認を怠らず、楽しく登りたいと思います。

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